コピペ論文,学会誌掲載取り消し

 最近のテレビのニュースのビデオを見ていたら,2/3の報道ステーションで剽窃事件が報じられていた。報道ステーションでは,剽窃事件ではなく,むしろ天下り団体への無駄な委託研究費の問題として取り上げていたが,私は剽窃事件として非常に気になった。

 これまで得られた情報から私が理解したところによると,経緯は以下の通りである。

  • 水産庁が,「平成18年度資源管理体制・機能強化総合対策委託事業」の一環として,独立行政法人水産総合研究センターに調査を委託。同センターは,(社)日本水産資源保護協会に再委託し,同協会は東京海洋大学のL教授に研究を委託。同教授が指導していた院生のH氏が協力者となった。
  • 2006年9月,H氏は東京海洋大学大学院を修士論文「サンマ市場構造に関する研究」(A)を提出。
  • 2007年3月,水産総合研究センターが報告書『社会経済的情報の検討』を公表。その一部に「サンマ加工・流通の実態と業者認識及び対処方向の把握に関する調査報告書」(B)が含まれていた。
  • 東京海洋大学のL教授は,同大学のN准教授に論文の投稿を働きかけた。N准教授は,自らを筆頭著者とし,H氏と連名で北日本漁業経済学会の学会誌『北日本漁業』に「サンマの需給構造と市場の変化」と題する論文を投稿し,2009年3月に第37号に原著論文として掲載された。
  • 同論文は,(A)と(B)からの剽窃(出典を明記しないコピペ)があり,学会内外から「盗作」ではないかとの指摘が学会に寄せられた。
  • 学会は,2009年6月から対応に乗り出し,調査委員会を設け,調査を行った結果,同年11月,会長は当該論文の学会誌掲載取り消しを行った。また,学会員であるN氏とL氏に厳重注意を行った。さらに会長は,この件について会員等へ「通知」と「学会誌掲載論文の取消しに関する所懐」を郵送した。
  • 他方,2009年6月,東京海洋大学にも,N准教授の論文が(社)日本水産資源保護協会で作成された報告書に酷似しているとの通報があった。同大学は,同月,研究不正調査委員会を設置して調査を行い,同年9月,不適切な点が認められたとして,N准教授とL教授に厳重注意を行った。その後,別の観点から調査の必要性が生じたとして,現在調査を行っているという。
  • 2010年1月27日付で,N准教授とL教授は北日本漁業経済学会会長宛に「盗作の疑念」に関する質問書を送った。
  • 2010年1月30日,毎日新聞がこの剽窃事件を報じた。
  • 2010年2月1日,東京海洋大学は「本学准教授の論文に関する報道について」を公表した。
  • 2010年2月3日,テレビ朝日「報道ステーション」がこの剽窃事件と,その背後にある天下り団体の問題を報じた。
  • 2010年2月18日付で,北日本漁業経済学会会長はN准教授とL教授に対して回答書を送った。
  • 2010年4月19日付で,北日本漁業経済学会会長は東京海洋大学学長宛に「論文『盗作疑惑』に関する公開質問書」を送った。これは,同学会の調査結果と海洋大の見解(2/1付)が異なるため。5月14日に同学会調査委員会から海洋大学学長に電話で回答を求めたところ,「現在、東京海洋大学で調査中であるので回答は控えたい」「(調査が終われば回答してもらえるのかというこちらの質問に対して)回答するかどうかもわからない。また,こちらとしては回答する義務はない」と答えたという(出典)。
  • 2010年5月29日,漁業経済学会の総会で,同学会理事のN会員とL会員による理事辞任の申し出が承認された。この辞任申し出は,同学会代表理事の辞任勧告を受けてのもの(以上,漁業経済学会代表理事「総会における「組織運営上の諸問題と対処策」の審議について」による)。
  • 北日本漁業経済学会事務局に,2010年7月20日付のL, N両会員による訴状が送られた。9月9日に東京地裁で口頭弁論が行われるという(出典)。

 この剽窃事件では,実際の研究にほとんど関わっていないN准教授が筆頭著者になっていることが大きく問題になっている。これはこれで問題だが,私が気になった問題は,学会誌に原著論文(オリジナリティーを主張する論文)として掲載された文章に,別の報告書や論文からのコピペによる剽窃があったことだ。引用の形式をとっておらず,出典も明記していないというのだから,疑いのない剽窃である。たとえ,自分が関わった論文からのコピペであろうと,このことは変らない。北日本漁業経済学会の「通知」には,「現状では『盗作』との疑念を招く状況にある」と書かれているが,「当該論文は当該報告書と内容・表現ともにほぼ同じであるにも関わらず,当該報告書からの引用・出典を一切示していない」というのだから,剽窃以外の何物でもなく,疑念などないといってよい。

 毎日新聞によると,当事者のN准教授やL教授は次のように言っているという。「准教授は『センターや協会に事前連絡しなかったことは反省している』としながらも『調査や分析には自分もかかわっている』と反論。教授も『准教授が新たに書いた部分もある。連名は合意の上で,なぜ掲載が取り消されたのか分からない』と話す」。剽窃についての反省が全くない。

 北日本漁業経済学会や東京海洋大学の調査委員会でも,N准教授が実際に研究に関わり,筆頭著者としての資格があるかどうかを問題にしているが,それと剽窃とは直接には関係ない。海洋大が発表した文書には「同准教授が報告書に関与した形跡があること及び論文には報告書に記載されていない考察が含まれていることから,問題となっている論文の共著者となることを必ずしも否定するものではなく,盗用に当たるとの結論までには至りませんでした」とあるが,剽窃が何であるかを理解していないと言わざるをえない。引用の形式をとらず,出典を明記していなければ,たとえ元の報告書に関与し,報告書に記載されていない考察が含まれていようと,剽窃(盗用)であることは変らない。

 研究者ですら,剽窃が何であるかを良く理解していないことがよく分る事件だ。

参考

※2010/3/25,2010/5/25,2010/7/1, 2010/9/8情報を追加。